ゴシラン

走ることについて語ります

「別海アイスマラソン」参加記(その3)

gossy54200.hatenablog.com

 

「日本初」の「凍った海の上を走る」マラソン大会である「別海アイスマラソン」。

 

この時期は、マイナス20度ぐらいまで冷え込むこともある別海町尾岱沼(おだいとう)であるが、この日は珍しく0度ぐらいまで気温が上昇した。

氷の上に積もった雪は水を含んで重くシャバシャバとなり、底なし沼の中を走っているような感じで、序盤から非常に苦戦したのであった。

2周目まではどうにか頑張って走ることができたが、3周目の途中で早くもギブアップし、とぼとぼ歩き出した私でした。

 

もちろん、歩いているのは私だけではない。

レース開始1時間後の段階で、上位選手以外の9割5分ぐらいの選手は歩いているという惨状であった。

もうこれはマラソンレースではなくて、軍隊の雪中行進という様相を呈していた。

正に、映画「八甲田山」の世界ですな。

見たことないけど。

 

 

ボケた写真であれですが、ご覧のように一歩一歩足を踏み入れる度に、足首までズボズボ埋まる環境で、まともに走れる環境ではない。

 

こういう思いがけない状況に陥ったとき、人間の感情はどうなるのか?

まず湧いてくるのが「怒り」という感情だ。

 

「どうして、この日に限ってこんな天気なんだ!」

「なぜ、除雪してくれないんだ!!」

「くっそ、4万も払って、こんなんやってられっか!!!」

 

カッカカッカしながら、ズボズボと歩を進めていきます。

しかし、30分も歩いていると、「怒るのもバカらしいな」と、エネルギーの無駄遣いに気づき、次の段階の感情に入ります。

それが「受容」。

 

「怒ったところで、苦しさが減るわけではないよな。」

「だったら、この状況を受け入れて、淡々と歩くしかないよな。」

 

ここで「感情」と「脚」を切り離すモードに入ります。

「自分はロボット。歩くロボット」と、考えて頭を使うことを放棄し、ただひたすら足を一歩一歩前に出す「作業」に専念します。

「なぜ、これをするのか?」と考えてはいけない。

「これはこういうものなのだ。しょうがない」と、今の状況を受け入れるのです。

 

ロボットのように歩いていると、メイン会場が近づくにつれ、コース誘導スタッフさんの熱い応援を受け、「あれ、この人なんでゾンビのように歩いているだけで応援してくれるんだろ?」と不思議な気持ちになってくる。

更にエイドのスタッフさんや他の選手からも「頑張って」なんて声をかけられると、「歩くロボット」と化した私にも、自然とある感情が芽生えてくる。

それが「感謝」である。

 

「人間、極限状態に陥ると『怒り→受容→感謝』のプロセスを歩んでいくものなのだろうか?」

「癌とかの重い病気になったときも、同じようなプロセスをたどり、最後は心穏やかにあの世に旅立てるのかなあ」などと、ズボズボ雪の中を歩きながら、私は哲学者になっていたのであった。

 

さて、3周目完了。

すでにキロ10〜11分の世界に入っています。

すっかりヘロヘロになり、エイドで森永のプロテインバーを食べます。

 

う、うまい!!!!

 

うまいぞ、森永のチョコプロテインバー。

このときは、家に帰ったら箱買いして食いまくろうと思ったぐらい、チョコの甘さが身にしみたのであった。

(もちろん実際にそんなことはしなかった)

 

 

さて、ここで前日の「北極冒険家」荻田泰永さんのお言葉を思い出します。

 

冒険中は同じものを食べ続ける。なぜなら、同じものを食い続けて、突然「うまい!」と感じたら、これは相当身体が疲れているということがわかるからである。

 

補給食がめちゃくちゃうまく感じるということは、ひょっとしたら、俺相当やばい状態なのか?

と、全体の1/3も進んでいないのに気づいたのでありました。

こうなると無理は禁物ですな。

 

まずは心拍数を下げましょう。

極めて歩きにくい道なので、キロ10〜11分ペースで歩いているだけで、心拍数は150ぐらいに上がっていましたね。

140ぐらいに心拍数を下げて、心肺の負荷を減らしましょう。

 

でもって、今度は歩き方を研究しましょう。

普通の道を歩いているときのように、前に重心をかけると、つんのめるような感覚でうまく歩けない。

スキーでコブ斜面を滑るときのように、若干、かかと側に重心をかけると、安定して歩けるようになってきた。

 

そして、膝下の力を使わないようにして、足をあまり上げずに、骨盤を左右に揺らしながら「股関節を使って」歩くと、よりラクに歩けるようになってきたかな。

重心を低くして、相撲の「すり足」をイメージしながら、のっしのっしと歩いていました。

ロードのマラソンと違って「腰高フォーム」では、全然進みません。

 


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とにかくここで大事なことは、「うまく身体が動かないときは、どうやったらうまく動かせるのか試行錯誤しながら考えていく」ということである。

ひょっとしたら、この経験は今後のトレランにも役立つのかなあ。

知らんけど。

 

色々試行錯誤した結果、歩き出してもどうにか心の折れ幅を少なくし、20kmまでは大体一定のペースで進むことができました。

 

(※ 13km、18kmはエイドロスも含めたタイムです)

 

歩き出してからは、あんまり時計を見ないようにして、それこそ「時間も忘れて」歩くことに没頭していましたが、5周目を終わり、ようやく「中間地点」にたどり着きました。

「あー、大丈夫だね。OK、OK」という、医師によるゆるいメディカルチェックを終えた後、久々にタイムをチェックします。

 

「3時間半」

 

ちょうど「38km(9周)7時間制限」の半分のタイムです。

いくら算数の弱い私でも、「3時間半で5周進めたということは、もう3時間半で4周行けるんじゃない?」と瞬時に計算することができ、ここで初めて「完走できるかも!」と、ちょっと本気出すことにしたのでありました。

 

(つづく)